現在話題の大人気小説や、旧作から最新の小説、隠れた名作など、幅広くミステリ・推理小説をレビューするミステリ・推理小説おすすめランキング。本投稿では西澤保彦先生のデビュー作にして、匠千暁シリーズの第一冊目となる「解体諸因」のレビューをお届けします。

書籍・著者情報

解体諸因(講談社文庫)

解体諸因(1997年、講談社文庫) 解体諸因 (1997年、講談社文庫)

西澤保彦
1960(昭和35)年、高知県生れ。米国・エカード大学卒。大学、高校の講師を経て、1995(平成7)年、『解体諸因』でデビュー。さまざまなスタイルで、本格ミステリに挑み続けている。『麦酒の家の冒険』『猟死の果て』『黄金色の祈り』『依存』『神のロジック 人間のマジック』『いつか、ふたりは二匹』『キス』など著書多数。引用元: 新潮社Webサイト

あらすじ

すべての謎は死体から始まった。6つの箱に分けられた男。7つの首が順繰りにすげ替えられた連続殺人。エレベーターで16秒間に解体されたOL。34個に切り刻まれた主婦。トリックのかぎりを尽くした9つのバラバラ殺人事件にニューヒーロー・匠千暁(たくみちあき)が挑む傑作短編集。新本格推理に大きな衝撃を与えた西澤ミステリー。(講談社文庫)

「解体諸因」3つのポイント

  • 何故犯人は死体をバラバラにしたのかを巡る物語
  • 短編集だが、最後に各話が一つにつながる様子が圧巻!
  • 匠千暁を始めとする魅力的なキャラクターが多数登場!

レビュー

採点

ストーリーの面白さ A
キャラクターの魅力 A
トリックの驚き A
総評 A

感想

1995年にデビュー以来、本格推理小説の書き手として最前線を走る西澤保彦。本書は西澤保彦のデビューにして、大人気シリーズとなる匠千暁シリーズの最初の物語です。

本書は短編集という体裁を取り、それぞれ独立した短編ではありますが、「死体の解体」というテーマは共通しており、最後の短編で、それまで一見無関係に思えた一つ一つの事件が収束していく様は圧巻です。

本書の主人公は匠千暁という青年。彼はいい年にして定職につかない、物に対する執着心はなく、最低限の住居と物資で日々を暮らしています。

彼が唯一大好きなものはお酒を飲むこと。推理小説のキャラクターには珍しい、お酒を飲めば飲むほど頭が冴え渡り、事件の謎を解き明かす、それが匠千暁です。

第一話目では、大学時代の友人が彼の家を訪れたことから物語はスタートし、新聞記事や週刊誌の情報をもとに、「バラバラ死体がは発見された事件」の謎を会話形式で推理していきます。

とはいえ、本書の主人公は彼だけではありません。短編集でもある本書は、各話で主人公が存在します。

匠千暁の大学の先輩であり、休学や留年を繰り返し海外を放浪することを生きがいとする辺見祐輔(物語時は名門女子校の教師)、匠千暁の大学時代の同期であり大切な存在である高瀬キャリアにして叩き上げのベテランのような粘っこい操作に定評がある中越正一警部など、後の匠千暁シリーズにも登場する個性あふれる魅力的なキャラクターが登場します。

本格推理小説が好きな方だけでなく、キャラクターが魅力的な小説を読みたい方にぜひともオススメの一冊です。

名台詞

何度も言うようだけど俺、○○(登場人物の名前)が犯人でも一向に構わないわけよ。彼に康江の死体を解体しなければいけない何か合理的理由があったというならね。
匠千暁、第一話「解体迅速」にて

そのオバさんは何故一〇一冊ものエロ雑誌を買っていったのか--絶対に何か合理的理由があったからだと思うんだけど
辺見祐輔、第四話「解体譲渡」にて

ネット上の口コミ

背表紙解説には『傑作短編集』とあるのでそのつもりで読んでいたら、第一章から最終章まで九つの章で構成され、
その全てが『バラバラ殺人』を扱っているという、異色と言ってもいい連作集でした。ただし、もちろん短編としても1話完結になっています。『バラバラ殺人』というのは、どこで、誰が、なぜ殺した・・・ではなく、なぜバラバラにしなくてはならなかったのか、というのが一番の着目点だと改めて気づかされました。しかし、その『なぜ~ならなかったのか』にあたる部分をこれだけ考え出し、さらにはそこに二重の意味を持たせたり絡ませたり覆したり・・・。つくづく、この作者の頭の構造はすごい、と唸らせられた作品でした。

タイトルからもわかる通り、バラバラ殺人という縛りで書かれた短編集。なぜ死体をバラバラにしたのか?という動機にスポットライトを当てて解かれていく事件はなかなか斬新。小説としての形式にすら挑戦的な部分もあり、まるで舞台の台本のように話が進んでいく短編には驚かされました。またこれが面白いからすごい。すべての短編に一応推理としての決着はついているのですが、最終章でさらに今までの短編で行われた事件を繋げて再推理を行うとは度肝を抜かれました。この作家の頭の中はどうなっているんだろう!複雑すぎて驚きを通り越して関心してしまいました。この最終章だけは今までの事件の総括的なところがありやや複雑なので、短編の内容を覚えてないとついていけないかもしれません。つまり本作は一気読み推奨です。あとやはりこの作家の書く人間はどこか喜劇じみてて登場人物たちがワアワア言い合っているだけで笑えてしまいます。生き生きしている人間を書くのが上手いなぁ。